「追うものと追われるものの関係」と「近代の知」―「映像文化論」高橋世織
昨日の高橋世織の講義から。
毎回、映像をテーマにあらゆる話題を縦横無尽に話されるのだが今回も面白い話がいくつも聞けた。
一番興味深かったのは、科学技術とかの発展とそれが可能にする人間の想像力の変容・拡張、そしてその想像力によって生み出された近代の思想とか科学とかの関係の話。
フロイト、ソシュール、コナン・ドイル、アインシュタインが並列に語られてかなり熱い。
例えば「映画」とフロイトの精神分析の関係なんてのはよく言われるわけだけど、フロイトに限らずそういう思想とか科学の変容は1900年前後にはいろんな場所で起こっていたんだよね。
科学で言えばアインシュタインの「相対性理論」は鉄道やエレベーター、航空機などが無ければ生まれなかったのではないか。
「相対性理論」を解説している本とかにはよく電車の図やエレベーターの図が出てくるはずだ。「特殊相対性理論」は電車で、「一般相対性理論」はエレベーターでよく解説されたりするかな。
電車の図はどんなものか。例えばこんなの。ちょっと自分で描くのめんどいから写メで失礼します。この絵描いた人ごめん。
「相対性理論」の説明は他のところに任せるとして、アインシュタインはたぶん上みたいな絵を描きながら思考実験を重ねていたんだと思う。特許局に勤めてたら実際の実験はできないだろうし、やろうと思ってできるような実験じゃないからね。
アインシュタインが実際に考えていたとされる有名な思考実験だと次のようなものもあったかな。
- 鏡を持って自分の顔を映しているとき、自分が「光」の速さで移動していたら自分の顔は鏡に映るのか否か?
答えはこれ読んでる人にちょっと考えてもらうとして、こういう「光」の速さみたいな速度の極限に対する想像力を膨らますのに、アインシュタインはけっこう鉄道だとかエレベーター、航空機、あるいはロケットみたいなものを頭の中で利用していたと思うんだよね。その結果生まれたのが「相対性理論」だったと考えられる。
1905年にアインシュタインは『特殊相対性理論』を発表している。フロイトの『夢判断』が発表されたのが1900年。ソシュールの『一般言語学講義』の元となる講義が行われたのが1906年から1911年。コナン・ドイルの探偵小説「シャーロック・ホームズシリーズ」が書かれたのが1887年から1927年。リュミエール兄弟による「映画」の誕生が1895年。
それぞれあまり関係ないように見えるかもしれないが、この1900年前後に起こっている近代の科学・思想・文学・芸術のパラダイムシフトとでも言うべき変化はすべて「追うものと追われるものの関係」という一言に集約される。
- 「映画」では「カメラと動いている人物の関係」。
- 「精神分析」では「分析家と患者の関係」。
- 「探偵小説」では「探偵と犯罪者の関係」。
- 「言語学」では「シニフィアンとシニフィエの関係」。
- 「特殊相対性理論」では「観測者と光の関係」。
これら「追うものと追われるものの関係」が20世紀の始まり、1900年前後に急速に意識されていったのは面白い。20世紀の「近代の知」=「分析の知」を準備した重要な出来事だと思う。
これらの知は1900年代前半に怒涛のスピードで推し進められ1960〜1970年代に入っていきなり行き詰まるんだけどまたそれは別の話、いわゆるポストモダンね*1。けど別にポストモダンにおいてこれら「近代の知」の重要性が失われたわけではない。むしろ重要性は増してるし、ポストモダンの思想とかもすでにその1900年前後の時点で準備されていたりする。ラカンなんてのはフロイトの精神分析をソシュールの「言語学」の枠組みを用いて精緻化させてるのだし。
あとこういう「近代の知」について調べる上で重要なのは「第一次世界大戦」とかの「戦争」による影響だろうなー。ウィトゲンシュタインなんかは戦場で『論理哲学論考』を書いてたっていうし。ちょっとここらへんも勉強せんとな。
あと講義で面白かったのは「語り」=「騙り」の話とかかな。そんな感じでした。以上。
*参考
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図を使って易しく解説されてる。Wikipediaはなんかやたら数式使ったりして分かりにくいからこっちのリンク貼っときます。