非線形力学系を解析するときに参考になる本まとめ

世の中で起こる出来事というのはだいたい複雑で理解しがたいものでありますが、ただ「複雑だ複雑だ」と言ってるだけでは何も理解できないままで終わってしまいます。幸いなことに我々人間には、出来事の本質を取り出して簡単なモデルを作る能力があり、そのモデルを調べることで出来事の性質を理解することができます。モデルの作り方は色々あると思いますが、その一つに微分方程式を使うものがあります。たとえば、世の中の多くの出来事は「入ってくるもの」と「出ていくもの」、そしてそれに伴う「変化」からなっていますが、それを

(変化)=(入ってくるもの)−(出ていくもの)

という形の微分方程式であらわすことができます。このような形であらわされたモデルを力学系(Dynamical system)と呼びます。たいてい微分方程式は2本以上の連立微分方程式であり、そのほとんどは解を解析的な計算で求めることができない非線形力学系です。今回はこのような非線形力学系を解析するときに参考になる本、テキストをまとめてみました。

【PDF】高松敦子. “数理生物学.” 早稲田大学 電気・情報生命工学科 2011年度「数理生物学」講義資料. 2011-07-11.

いきなり本ではないのですが、驚くべきことに日本語で書かれている非線形力学系のテキストでは一番使えます。扱ってる対象は生物学における非線形力学系ですが、線形解析や相平面解析など非線形系を扱うときに必須となる道具がわかりやすく、かつ、すぐに使える実践的な形で紹介されています。それらの道具が紹介されてる35ページから48ページを理解すれば、非線形力学系の問題に即とりかかることができます。このような貴重なテキストを公開されてる高松先生に感謝です。

Nonlinear Dynamics And Chaos: With Applications To Physics, Biology, Chemistry, And Engineering (Studies in Nonlinearity)

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こちらも実際の非線形力学系の問題を解くことを意識して作られた使えるテキスト。例題が豊富で、それらを読みながら非線形力学系の解析方法を学んでいくことができます。265ページからのジョセフソン接合の例題を一通りフォローできれば、非線形力学系の理解は十分です。世界中で使われているテキストらしいのですが、意外と大学図書館に置いてなかったりします。そういうときは大学図書館にリクエストして置いてもらいましょう。リクエストして図書館に届くまで待てないせっかちな方はここで入手しましょう。

Hirsch・Smale・Devaney 力学系入門―微分方程式からカオスまで

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Morris W.Hirsch S. Smale R. L. Devaney 桐木 紳

共立出版 2007-08
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翻訳されてるテキストでは一番よくまとまってます。9章から非線形系の解析方法が豊富な例題とともに紹介されています。他のテキストではあまり出てこないリャプノフの定理の証明も載っており、非線形力学系の背景にある理論も詳しく理解したい方におすすめのテキスト。

力学系カオス

力学系カオス力学系カオス
松葉 育雄

森北出版 2011-06-17
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こちらは参考までに紹介する異色作。力学系のテキストはたいてい線形系から入って非線形系へと発展するという構成なのですが、このテキストは最初から非線形系を想定して書かれており、その分、非線形系の解説や図版が豊富に入ってます。他のテキストではあまり詳しく紹介されない大域的分岐の解析方法についても詳細に書かれてます。いささか詰め込み過ぎな感はありますが(本自体めっちゃ重い)、非線形力学系に関する辞書といった感じで使うことができると思います。

非線形科学 (集英社新書 408G)

非線形科学 (集英社新書 408G)

非線形科学 (集英社新書 408G)

日本の非線形科学の第一人者である蔵本由紀先生による非線形科学の解説書。上で紹介したような教科書ではありませんが、幅広く非線形科学の展望を知ることができ、非線形現象のイメージを作るのに最適です。研究に詰まったりしたときに読むと、いいアイデアが得られたりするかもしれません。

SYNC - なぜ自然はシンクロしたがるのか -

SYNC

SYNC

こちらは「同期」を中心にまとめられた非線形科学の解説書。「ホタルはなぜ、いっせいに光るのか?」から「量子のコーラス」まで生物、非生物に共通してあらわれる同期現象を巧みな比喩を駆使して語られています。こちらも非線形現象のイメージを作るのに最適。翻訳も良く、科学読み物としても優れています。


以上です。次のサイトでもおすすめの本が紹介されてますので参考にしてみて下さい。