「命令 injunction」- 数学的コミュニケーションの基本形式 - メモ
数学的なコミュニケーションが、記述ではなくて命令 injunction であることを、わきまえていることが、この段階では役立ちます。
その点では料理法のような実用的な技術形式に喩えることができます。というのは、そこでは、ケーキの味は、言葉で実際通りに記述することはできませんが、レシピと呼ばれる一揃いの命令の形をとって読み手に伝えられることができるからです。
同様な技術形式に音楽があります。作曲家は、自分が思い描いている一揃いの音を記述しようなどとは思いもしません、いわんや、そこで醸し出される一揃いの情緒を記述しようなどとは思いもよりません。書かれるのは一揃いの命令ですが、読み手(演奏者)がそれに従うことで、作曲家のオリジナルな体験は、読み手に対して結果として再現されることが可能です。―p87 : 形式の法則
…数学は、あれやこれやの「経験科学」とは異なり、自らがその振舞いを模写し記述しなくてはならないような外的な対象を持たない。数学的な対象は、ただ数学的な操作によって、その操作の相関項として生み出されるのである。
この点では、数学的コミュニケーションは、「経験科学」よりも音楽とよく似ている、とスペンサー=ブラウンは言っている。
楽譜は、音を記述するものではなく、音を現出させるための命令群である。音楽的対象(音)は、作曲家が音に関して述べた命令(楽譜)に従った操作(演奏)によって、はじめて積極的に存在する。
数学的コミュニケーションの基本形式も、記述ではなく、楽譜がそうであるような意味で「命令 injunction」なのである。対象(演算数)は、ただ(命令に従った)操作とともにはじめて現出するのである。―p26 : 行為の代数学―スペンサー=ブラウンから社会システム論へ
そういや数学の問題っていつも偉そうな命令形で書かれてるよね。
「〜を求めよ」とか「〜であることを証明せよ」とかさ。
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