不変構造/新しい自然観

非線形科学 (集英社新書 408G)

非線形科学 (集英社新書 408G)

数式を使わない非線形科学の入門書、と銘打たれていて思わず「ホントかよっ」と思い手にしてしまった。

ホントに数式使ってない。2、3回くらい出てくるけど理解する必要はない。著者の言葉に対する強い信頼が感じられる。20世紀の後半になって成果を上げてきた非線形科学のエッセンスを「肌身にじかに働きかけてくる」日常語でイメージすることができる。

図版も多くて面白い。特にp227の人工風景はすごい。非整数ブラウン曲線の拡張であるフラクタルな曲面が自然の山の風景に非常に似ている。北アルプスっぽい。


変わらないもの、不変な構造を発見し、そこに注目することは数学とかの問題を解く上での定石のひとつでもある。

著者がエピローグで書いてるように20世紀前半までの物理学はミクロ世界の不変構造を探索していく歴史だったと言える。物質から分子、原子、原子核、電子、陽子、中性子、最近ではクォークとかひもとか言ってるらしい。よりミクロな不変構造、量子力学などの発見によって人類は自然をコントロールする強大な力を手にした。

これら数々の成功により、物理学者は「ミクロ世界さえ押さえればこの世界は原理的に理解可能である」という一種の信仰を持っているように感じられる。

しかし著者はその自然観に疑問を投げかける。

自然観の信者たちは科学という知識体系を1本の樹木のようにイメージしがちだ。イメージでは、多様なものを統合しようとすると、根本に行く方向でしか考えられない。

だが本書で紹介されているように、複雑な現象の中に踏みとどまり、そのレベルで不変な構造の数々を見出すことは優に可能だ。

海岸線と雲と毛細血管が共通の数学的構造を、フラクタルという不変構造を通してつながっているとは、それまでの自然観信者には思いもしなかったことだろう。

著者は「非線形科学で見出された不変構造は隠喩に近い働きを持っているように思う」と語る。それまでの自然観とは違う新しく面白い自然観を垣間見ることのできる非線形科学に強い可能性を感じた。