「友情はセックスのない恋愛である」

と言ったのはたしか橋本治だったが、ようするにそういうことである。

恋愛的瞬間 (3) (小学館文庫)

恋愛的瞬間 (3) (小学館文庫)

こちらにも書かれている。

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「オトコとオンナの間に友情は成立すーるか?」

この人には、「相談に乗っているうちに、上に乗ってしまう」などというシチュエーションが不思議で仕方がないわけだ。彼女にとって、世界は、友情と恋愛にはっきりと分裂している。

 彼女には、この『恋愛的瞬間』に登場する心理学者・森依四月が、主人公・ハルタたちに「友情と恋愛の違いはなんでしょう」と聞かれたときの、次のやりとりをぜひかみしめてほしい。

森依「…恋愛は あらゆる抵抗に打ち勝つ相思相愛の力。友情は 相思相愛でありながら 抵抗によって達成できない疑似恋愛関係
ハルタ「抵抗?」
森依「同性であるとか 既婚者であるとか 恋人がいるとか 顔は好みだが性格が気に入らない 性格はいいが肉体的には受けつけない等々 逆をいえば抵抗があるにもかかわらず気持ちのベクトルが向き合っている人間関係と言ってもいい」
ハルタ「友情は恋愛の一部ですか?」
森依「そうではないものを私は友情とは呼ばない」
ハルタ「じゃあ抵抗を克服すれば」
森依「恋愛になる可能性は極めて高いと言える」

 この森依の言葉は橋本治の「友情はセックスのない恋愛である」を思い出す。

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というのは、最近のはてな界隅のこの話題。

はじめのブログに貼られた参考URL「キミとボクとは友達か?その1 - wHite_caKe」で提起されてる重要な指摘を離れ、「既に手垢がついている、使い古された問い」である「男と女の間に果たして友情は成立するものなのか」問題へと戻っていってしまってるのが残念でしょうがない(けど俺はこんなまるで中学校とか高校の放課後の教室で出るような話題で盛り上がれるはてな界隅(主に非モテ周辺)が大好きだぜ!)。


では参考URLで指摘されている「重要な指摘」とは何か。引用してみよう。


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まあ、もしも私が誰かに

「男と女の間に、友情って成立するものかね?」

と問われれば、

どうでもいいけど、その問いは非常に世界観の狭い問いだよ。世の中はヘテロセクシャルのひとばかりじゃないし、生身の人間よりその人がはいている靴下のほうが好きというひともいるんだしさあ。そのへんに関しても考察してからもう一度聞いて頂戴」

と答えるでしょうけどね。

「男男間に友情は成立するのか?」

「女女間に友情は成立するのか?」

という問題だって同様に存在しうるはずなのにそこに気付かないなんて、ヘテロセクシャルな世界観に支配され、「自分以外の人間は全員自分じゃないんだよ」ということを知らない、視野の狭いお方なのだなあ、と私は思ってしまいますよ。
キミとボクとは友達か?−その1− - wHite_caKe

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ここらへんがほとんどスルーされてるのが残念。
そのあと事例を出され


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ニンゲンカンケイって難しいなあ。

それは男女間だろうが、男男間だろうが、女女間だろうが、同じように難しい。

友情だろうが恋愛だろうが、それが簡単になってしまうことはない。

友人であっても、恋人であっても、家族であっても、何の面倒もなく気楽につきあえる相手、手を抜いてつきあっていい相手なんて、いない。
キミとボクとは友達か?−その1− - wHite_caKe

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とつぶやかれている。
なんかすげー感動した。
斎藤環が最近たどり着いたテーゼ<すべての関係は性関係である>(ネタ*1を確かめてみたところ正確には<関係とは性的関係のこと>とありました)という精神分析によるラカン的な真理をこの方は直感で分かっていらっしゃる。


つまり「友情」と「恋愛」の関係は単純に右と左に分けられるものではなく、包含関係にあるものと考えられる。

図で表せばこんな感じだろうか。

「恋愛」が内に「友情」を含んだ形となっている。一般的には逆に「友情」が「恋愛」を含んでいるものと考えられてはいないだろうか。
これに一番最初の引用に出てきた「友情」にかかる<抵抗>のベクトルを書き込むとこうなる。
「友情」からのびるベクトルは<好意>のベクトルとでも呼んでおこう。*2

以上から分かると思うが、「男と女の間に果たして友情は成立するものなのか」問題に対する僕の解答はid:white_cakeさんとほぼ同様にこうなる。


「男と女、男と男、女と女、いかなる関係であれ友情が成立するのは<好意>と<抵抗>のベクトルのバランスがとれている時である。
よって男と女の間でもそのバランスが保てれば友情は成立する。」


けど男と女になるとそのバランスが難しくなるんだよなぁ。
単純に<抵抗>のベクトルが減るから。
やっぱり「ニンゲンカンケイって難しい」。


はてブコメントより。



*そういや斎藤環萌えなのに『「性愛」格差論―萌えとモテの間で (中公新書ラクレ)』まだ読んでない!つーか買ってすらいない!ごめん!

*1:The COOL! 小説新潮別冊 桐野夏生スペシャル (Shincho mook)『「関係の科学」としての桐野文学』(斎藤環

*2:http://d.hatena.ne.jp/massunnk/20060901/kankeiでは図をもう少し詳しく説明しています